どうやら、あの子は髪を切ったらしい。
あの子の足元に散らばった髪が、
どちらが毛先だったか迷うほど
乱雑に散らばっていた。
あの子は「もう、十分だ」と思った。
傷んだ髪も離れてみれば案外綺麗なことを
あの子は知ったのだ。
シャンプーの後、あの子が席に戻ると、
散らばった髪は跡形もなく、掃除されていた。
大理石のような床材が日に照らされて
きらきらとして、あの子の瞳に光を与える。
やっぱりあの子の髪は、あの子の一部だった。
そしてあの子の髪は憂鬱をはらんでいた。
鏡の中のあの子は、満足気で、他の誰でもない
「あの子」だけに微笑みかける。
自分という存在の輪郭を自分の意思で
整えられたことが嬉しかったのだ。